ホラゴンクエスト物語:第8話

呪文詠唱秘話


ここはサントハイムのお城。
おだやかな午後。
今日もサントハイム城に平和な時が流れる・・・・・・・・・わけもなく
遠くから”うるさいという表現がとても似合う声を響かせて”姫が走って近づいてきた。

「ねえ、ねえ、クリフト知ってる?北の森に狂暴なクマモンスターが出るらしいわよっ!」

姫のハイテンションは毎日のことだが、今日は城に立ち寄った旅人からモンスター出没の話を聞いたらしく
いつにも増して声高でうるさかった。

「クリフトー聞いてんの?ねえ今夜クマ退治に出かけるわよ!!
わたしね、このあいだクマと戦う夢見たのっ♪なんか正夢ぇ〜って感じがするわっ♪♪」

「姫、何を言ってるんですか。明日は上級魔法使いになるための試験が控えてるんですよ!
のんきにクマ退治だなんてとんでもない・・・。」

そう、アリーナ姫はずば抜けた呪術のセンスで、この年で”上級魔法使い”の
仲間入りができるくらいに成長していました。
これはサントハイムの歴史上最年少での出来事であり、このまま上に進めば
「”天才宮廷魔術師ブライ”をも軽く超えてしまうであろう」と皆の注目の的になっていました。
そして、その上級魔法使いになれるかどうかの、”サントハイム魔法審議委員会の試験”が明日に迫っていたのです。
アリーナの教育係である私は、その明日の試験のことで頭がいっぱいでした。

「ねえねえ、何時に出発する?」

「はぁ〜〜〜(深い溜め息)
姫、まだ言ってるんですか?クマ退治なんて行きませんったら行きません!!」
(私がこんな胃の痛い思いをしてるっていうのにこの人はまったく・・・・・・ブツブツ)

「何言ってるの?これは明日の試験のための実践訓練よ♪
実際の敵で呪文を鍛えてこそ、真の魔術師への道が開けるのだと思うわ。
それに・・・・・」

出たっ!!必殺姫のへ理屈・・・・。
これが始ってしまうと、相手が納得するまで1時間でも2時間でも平気で姫は喋り続ける。
う〜〜ん、困った。
苦しまぎれに私はこんな言葉を口にした。

「では、ブライがいいと許可したら行きますよ。」
(いいと言うわけはないハズ・・・・ふふふ)

「ほんと?じゃあ、ちょっと待ってて♪」

5分後、姫は満面の笑みを浮かべながら帰ってきた。
「ブライ爺に聞いたら2人で行ってもOKだって♪♪」



苦しまぎれに口から出た言葉・・・・・・・。
この言葉のせいでブライの身にどんな不幸が起こったのか・・・・・・・・。
私はあまりに恐ろしくて想像することすら出来なかった。

「出発は9:00に決まりねっ♪遅れるなよ。クリフト先生!!」

◆PM9:00
私達は城の皆に気付かれぬよう外に出た。
目指すは狂暴なクマモンスターが出るという、サントハイム北の森。
ほんとにいるんだろうか・・・・・・・・・・・・。

「そうそうクリフト。このあいだの写真現像できたよ♪はいっ。」

森への道中で、突然アリーナが1枚の写真を差し出した。
2,3日ほど前、城内にてみんなで記念撮影した時の写真が出来上がったらしい。
(なにもこんな時に持ってこなくても・・・・ブツブツ)
アリーナ姫に聞こえぬよう独り言を言いながら、私は写真を受け取った。

「アレ?この写真アリーナ姫しか写ってないじゃないですか?」

「うん♪他はいらないと思ってわたしの部分だけ引き伸ばしたの♪♪
なかなかキレイに仕上がってるでしょ!」

うわ〜〜〜〜〜〜〜、なんて自分勝手なっっ。
一緒に写ってた人がカットされたなんて知ったら、悲しむだろうな・・・・・。
私はその姫のプロマイドと化した写真を、皆に絶対見せてはいけないと誓いながら
服の奥の奥のポケットに隠した。


どのくらい歩いただろう・・・・・。
クマどころか、野良犬一匹姿を見ることもなく静かな闇が続いていた。
(*注:この場合の”犬”とはあばれこまいぬを指します)

「もう帰ろうか・・・・。」

姫がそうつぶやいた瞬間、突然物凄い雄叫びが闇を切り裂いた!!

「ウガァァァァー!」

雄叫びと同時にまわりの木々は粉々となり、私達の頭上に鋭いツメが襲い掛かった。

「危ないっ」

私はとっさにアリーナ姫をかばった。

「ぐはっ!」

クマの爪攻撃を背中に受けてしまった。
私はその場に倒れこんだ。
クマが近づいてくる。それは想像してた以上に大きな大きなクマだった。
あきらかに普段見る雑魚モンスターとは違うオーラを放っていた。
(ヤバイッ、こいつはボスキャラだ・・・・・・)

「クリフト、大丈夫?!」

「大丈夫。それより強力な魔法で一気に倒すぞ!!」

アリーナ姫が天才魔法使いといっても、攻撃呪文はまだほんの少し私の方が勝っていた。
ここはちょっと自慢したい(先生としてカッコイイところを見せておきたい)という気持ちもあり
私はアリーナより先に呪文詠唱の体勢に入った。

「メラゾーッマーーー!」

炎の玉が巨大グマを打つ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しかし効果はなかった。
しまった。これは効かないのか・・・・・。
ではこれでいこう。
私はすぐさま違う呪文を唱えた。

「バギクローーーッス!」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しかし効果はなかった。

こ、これもダメか・・・・・。ならば

「ベギラゴーーーーン!」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・しかし効果はなかった。

なんということだろう・・・。
私の自慢の攻撃魔法は、どれもクマに通用しなかったのだ。
ここは少し残念だったが、アリーナ姫に頼るしかなかった。

「アリーナ姫!姫の得意なイオナズンで決めろ!!いけーーーーー!」

そう大声で叫ぶ私を、姫は悲しげな表情で見つめ返した。

「ごめんクリフト。わたし今”MP7”しか残ってないの。エヘッ♪」

「え〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!」


なんということだろう・・・。(←2度目)
この大事な時にMPの回復をやってきてないなんて・・・・・・(なにがエヘッ♪だ><)キーッ
MP7って何が使えるんですか?ザラキ??
ボスキャラにザラキなんて効くわけないじゃないかっ。バカ姫。
だいたい来る前に「これは実践訓練よ♪」と、自分で言ってなかったかっ?!
うわ〜〜〜。もうおしまいだ・・・・。
(↑↑心の中の叫び)

そんな絶望感が漂う中、巨大グマが私達2人の元へ近づいてくる。
打つ手が無く、あせりの表情を浮かべる私に、アリーナ姫は明るくこう言った。

「わたしにまかせて♪きえぇぇぇぇぇ−−−」

アリーナ姫は気合を入れ、腹の底から叫びながらクマめがけて突進して行き

「うりゃぁぁぁぁ」

思い切りジャンプして、巨大グマの腹に武闘家並みのキックをヒットさせた。
そのキックはクマに大ダメージを与えたようだった。
知らなかった・・・・・・・。アリーナ姫に挌闘家としての素質もあったとは・・・。

ダメージを負ったクマは狂暴さを増し、私達に襲い掛かってくる。
でも大丈夫だ。
クマの様子から見て、姫のキックがもう1度決まれば私達の勝ちだ。
ここはちょっと恥ずかしいが、姫に期待するしかなかった。

「痛っ、さっきのキックで足くじいちゃったみたい。
やっぱ突然武闘家の真似事なんかしても駄目ね。エヘッ♪」



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」(←クリフトのセリフ)





















その後、私達は何発クマの爪攻撃を受けただろう・・・・・・・・。
2人ともグッタリして、もうダウン寸前だった。
私ははっきり言って、もう希望を失っていた。もう2人とも死ぬと覚悟していた。

「ね、ねえ、クリフト・・・。MPいくつ残ってる?」

姫が力ない声で私に問いかける。
私は力ない声で「2」と答える。

「わたしにホイミを唱えて・・・・・・・。」

そうささやく姫の目は、輝きを失っていなかった。何かをやってくれそうな気がした。
わたしはその根拠のない期待感に賭け、最後の魔力を振り絞ってアリーナ姫にホイミを唱えた。

彼女の身体にほんの少しだけ活気が戻る。
しかし、そんな彼女に容赦なくクマの鋭いツメが襲い掛かかってきた!

「さあ、クマちゃん!これが最後の攻撃よ♪」





「ザラキーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」




彼女の口から発せられた死の呪文は、森の風に乗り巨大グマを包み込んだ。
呪われた死の言葉は、暗黒のメロディーとなって魔物の耳に入りこみ、その身を内側から一瞬で消滅させる・・・・・・・。
巨大なクマの姿は瞬く間に森の闇に溶け込んでいった。



「やったわ♪
ねえ、やっつけたよっ♪クリフト!!」

喜んだのもつかの間、彼女はそのまま気を失い倒れた。
「よくやった」と、彼女の身体を支えてやりたかったが、私にもそんな力は残っていなかった。

神に仕える高位の神官にのみに許された強力な昇天呪文「ザラキ」。
思えば、基礎から修行を始めるのを嫌うアリーナ姫に、私が最初に教えた呪文でもあった。
なにより驚いたのは、ボスキャラにこの呪文が通用したことである。
通常のゲーム進行では、固定モンスターには効かない呪文のはずなのに・・・・・・・・・。
とにかく、私達は命を失わずにすんだ。最後まであきらめなかったアリーナ姫のおかげである。

薄れ行く意識の中で、私は
「どんなモンスターとの戦いでも、”絶対”と決めつけるのはよくない。
今度からは”固定観念”を捨てて戦闘に臨もう・・・・・・・・。」そう堅く心に誓った。



私達は深手を負っていたので、自分達の力で城に戻る事はできなかった。
気がついた時、私はサントハイム診療所のベッドの上でした。
翌日、サントハイムの兵士によって大捜索がおこなわれたそうです。

アリーナ姫を危険な目に合わせた私の罰は、とてつもなく大きなものを想像していましたが
”修得呪文没収”
という処罰で済みました。つまり、私に残された呪文はホイミだけで、それ以外の呪文は全て
”サントハイム魔法審議委員会”に没収されたのです。

後から聞いた話なのですが、私の最初の処罰は
「魔法全て禁止+神官であることも許さない」
というものだったらしいのですが、アリーナ姫の渾身の訴えでこの軽い処罰になったそうです。
魔法を全て禁止されてしまうと、一生呪文詠唱のチャンスはなくなりますが
呪文没収という罰は、また呪文を覚え直せばいいだけの話ですので、また頑張ろう!という気になれます。
ほんとは”呪文なしからのスタート”と、審議委員会は言っていたらしいのですが
「ホイミはわたし達を救ってくれた呪文だから・・・・」
と、こちらもアリーナ姫の頑張りで、私の身体に残されたようです。

そしてもっと驚いたことは、MPのことです・・・・・。
アリーナ姫は自分が魔法使いになる道をあきらめ、私にMPを分けてくれたらしいのです。
そのMPは皮肉にもザラキの消費MPである”7”でした。
このことを姫に聞くと
「わたしは前々から武闘家になるのが夢だったの♪クリフトも見たでしょ?わたしの挌闘家のセンスっ♪♪」
と、はぐらかされました。
余談になりますが、あの夜の出来事以来、姫は自分の部屋でキックに磨きをかけ
ほんの数日で、部屋の壁を壊すほどのキック力を身につけたようです。





********************************************<数日後>***************************************************





ここはサントハイムのお城。
おだやかな午後。
今日もサントハイム城に平和な時が流れる・・・・・・・・・わけもなく
遠くから”うるさいという表現がとても似合う声を響かせて”また姫が走って近づいてくる。

「ねえ、ねえ、クリフト知ってる?
テンペの村でなにか事件が起こってるんだって!!」


この日、私はこの先に何かとてつもなく大きな冒険が待っているように感じた。
しかしもう迷うことはない。
私は姫の行くところはどこまでもついて行きます。
姫のプロマイドを胸に、どんな時でも私のホイミでお救いしましょう。
姫から託された”MP7”の重みを忘れず、初めて会う敵にはザラキを試しましょう。



私クリフトは命を懸けて、あなたのために呪文詠唱をするのです・・・・・・・・・・・・・・・・・・。




〜〜〜そしてドラゴンクエスト4の2章が始る〜〜〜


(おしまい)

SPECIAL THANKS:ライノスさん


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