ホラゴンクエスト物語〜第1話〜

〜銀の竪琴(前編)〜


ある朝、詩人ガライは庭から聞こえる美しい竪琴の音色で目を覚ました。
眠い目をこすりながら音のする方向へゆっくりと歩き出す。
ゆっくり歩を進めながら、脳が少しずつ目覚め始め
何故自分が寝不足なのか・・・・?竪琴の音色が何故聞こえてくるのか・・・・?
などということを思考する余裕が生まれてきた。

「そうだ、わたしは昨夜遅くまで竪琴の仕上げにかかっていたので寝不足なんだ。
2年と3ヶ月かけてやっと完成したわたしの竪琴に誰かいたずらしているんだな?
くそっ!
今日初めて弾くのを楽しみにしていたのに。
何者かはわからんがとっちめてやるっ!」

詩人ガライは2年前から自分の歌声を一生ささえるであろう、究極の竪琴制作に燃えていた。
美しい銀色の装飾を全身に施した竪琴は「銀の竪琴」(そのまんま)
と命名され、昨夜やっと完成の時を迎えたのであった。

1番風呂を誰もが好むように、当然ガライもこの竪琴の初演奏を
楽しみにしていたのである。それが誰かに触れられている・・・・・
ガライは慌てて庭へ向かった。
・・・・が、いきり立って庭へ出たガライは驚く光景を目にした。
竪琴を奏でていたのは人間ではなくモンスターであったのだ。
モンスターというだけで驚きなのだが、なんとそのモンスターは
全身が金色に輝く「マドハンド」であった。
その金色のマドハンドは、ガライの庭の中央にある切り株の上で
気持ちよさそうに「銀の竪琴」を奏でていた。

ガライは、瞬く間に怒りを忘れた。
それは決して、”黄金のマドハンド”が珍しかったからではなかった。
庭に出て、マドハンドの奏でる音色を直に聞いた瞬間、ガライの体をやさしい空気が包んだのである。
なんとも形容しがたい、温かな・・・・・痛みや憎しみを癒してくれる音色であった。


***

元来マドハンドは「モンスター界の修理屋」と呼ばれ、その器用さはどのモンスターよりも突出している。
急ぎの仕事が入った時などは仲間をすぐに呼び、大人数で武器の制作、修復などを行う。
また、自分達の手におえない力仕事などの場合は、「だいまじん」や「ゴーレム」といった
体の大きなモンスターを助けに呼ぶ事も得意である。

そんなマドハンド種族の中で、この金色のマドハンドは少し変わっていた。
普通色のマドハンドは職人気質だが、この黄金のマドハンドはどちらかというと
音楽、芸術面に長けていたのである。
一昔前まではゾーマの城で優雅に生活していたこのマドハンドであったが、世界征服に燃えるゾーマの
モンスター改革案によって、戦闘に役立たないと判断されたため絶滅させられたと伝えられていた。

***


そして・・・・・今ガライの目の前にその生き残りであろう1匹のマドハンドがいた。
マドハンドはガライに臆する事なく、切り株の上で竪琴を奏で続けた。
表情・・・・というとおかしな話かもしれないが、竪琴を弾くマドハンドはとてもうれしそうに見えた。
ガライはしばし時間も忘れマドハンドの奏でる美しい音色の世界に体を委ねた。

どのくらい時間が経ったであろう・・・・・・。
ふと、ガライは我に返りまわりを見渡した。すると・・・・・・
ガライの庭のまわりにどこからやってきたのか様々なモンスターが集まっていた。
ガライは慌てた。彼はあまり強くなかったのだ。
しかし、モンスター達は襲ってくる様子を見せなかった。
どうやら、このモンスター達はマドハンドの奏でる音色の美しさに引かれ集まってきたらしい。
大王と呼ばれる巨大なガマガエルも・・・・炎を吐くムカデなんかも・・・・・
みんな、静かに聞き入っていた。

それから、毎日このマドハンドはガライの家を訪れるようになった。
ガライも快く金色のマドハンドを迎え入れ、彼の演奏に耳を傾けた。
集まるモンスターの数も日が経つに連れ次第に増えていった。
争うことを忘れたモンスター達はとても穏やかな表情を浮かべ、マドハンドの奏でる音に心を委ねた。
演奏が終わった帰りの道中でも、彼らが人間を襲う事はなかった。



・・・・・・・・そんなある日、事件は起こった・・・・・・・・・・・・


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